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戦乱のヨーロッパからオーストラリアへ
  『我が切手人生』出版

マックス・スターン著(大槻武・訳)

私が翻訳した、メルボルンのユダヤ系オースト ラリア人切手商マックス・スターン氏の波乱の人生83年間の回想録が本になった。原著は2003年にメルボルンで出版されたもので、中国語版、スロバキア語版も出版されたということである。 マックス・スターン氏は1921年、チェコスロバキアのブラチスラバ(現スロバキアの首都)で生まれたユダヤ系オーストラリア人。メルボルンのブリンダース駅前に店を構える、オーストラリアでは有数の切手商で、85才になる今も元気に活躍している。少年時代父親から手ほどきを受け切手収集を始めた彼は、やがて混乱の時代を迎えると切手の売買で一家の生活を支え出す。ナチスのユダヤ人狩りが始まり自身は潜伏生活に入るが、両親兄弟はアウシュビッツに送られ、最後には彼も強制収容 所へ。「死の行進」も経験するが幸運にも生き長らえ解放されて戻った故国は社会主義政権の支配となり、1948年新妻とともにオーストラリアに移住する。言葉の苦労と戦時のトラウマにもめげず仕事に精を出し、そして冷戦終結、母国再訪を果たす。ユダヤ人、第2次大戦、切手、オーストラリア…というキーワードに引かれて読みだした私は、ドラマより面白い(と言ってはスターン氏に失礼だが)展開に心奪われた。収集家の目からは戦乱の中での切手事情ももちろん面白かったが、潜伏生活とそれを支える人々の姿や、普通の歴史書で はうかがい知れない普通の人々の戦時下の実状がよく分かった。 私は「ドイツ切手部会報」の編集を担当しているので、翻訳して掲載し仲間にも読ませたいと考え、スターン氏に手紙を送ったところすぐさま快諾を得た。

私自身は世界各国の切手を集めていてドイツ切手部会に入れてもらっているが、メインはオーストラリアで、あちらの切手雑誌でスターン氏の名は知っていたが、彼の店から買ったこともなく、むろん彼がユダヤ人であることも知らなかった。連載開始後メルボルンへ行った時、店を訪れた。初対面の彼は背が高く、とても83才(当時)とは思えないかくしゃくとした老人で、きらきら輝く目が印象的であった。連載終了も間近となった頃スターン氏と部会内双方から、このまま終わるのではもったいない、1冊の本に出来ないかという声があがった。資金その他いろいろな問題があったが、それらをクリアしてドイツ切手部会が1冊の本にまとめることになったものである。切手収集家ばかりでなく、第2次大戦、ユダヤ人問題、オーストラリアの戦後移民などに関心のある方々にもぜひ読んでいただきたいと思う。

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